製造業の利益率について「どのくらいが目安なのだろう、自社の利益率は健全なのだろうか?」とお悩みの方も多いでしょう。
本記事では、製造業の利益率目安・平均値を、業種別に紹介します。
自社の損益状況に不安がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
※本記事に用いるデータは、財務省が管轄する日本政策金融公庫の業種別経営指標です。
利益率は、下記5つに分類されます。
本章では、各利益率のおさらいとともに、計算方法と製造業全体の平均値を紹介します。
売上高総利益率とは、粗利率とも呼ばれる、最も一般的な利益率。
企業が販売している商品・サービスが、どれほどの利益を生んだのかを表す重要な指標です。
製造業企業では、売上高から製造原価を差し引いた売上総利益を用いて、下記の計算式で算出します。
売上高総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100
売上高総利益率(粗利率)は、景気変動の影響を受けやすく、経営戦略の成果や商品の付加価値なども内包する利益率です。
製造業の全業種を対象として調査によると、売上高総利益率(粗利率)の平均値は41.8%です。
売上高営業利益率とは、企業の主力事業による収益性を示す指標。
先述した「売上高総利益率」よりも、利益率の対象範囲が広いのが特徴です。
売上総利益率から、人件費・広告宣伝費などの販管費を差し引いた営業利益を用いて、下記の計算方法で算出します。
営業利益は、支払利息を控除する前の数値であるため、財務活動の影響を受けず、純粋な事業の収益性のみを切り出せます。
製造業全体の売上高営業利益率の平均は、4.5%です。
売上高計上利益率は、企業全体の収益力示す指標です。
売上高営業利益率が主力事業の収益性を示すのに対し、売上高計上利益率は、企業の全活動による利益率を示します。
たとえば、製造業を本業とする企業が、不動産から家賃収入を得ている場合、製造業の利益と家賃収入の利益を合算して計算します。
そのため、売上高営業利益率よりも、企業の収益性を合理的に推し量ることが可能です。
売上高経常利益率は、下記の計算方法で算出できます。
製造業全体における売上高経常利益率の平均は、4.6%です。
自己資本経常利益率は、ROE(return on equity)とも呼ばれ、自己資本の運用効率を示した指標。
経営者よりも、投資家に用いられるケースが一般的です。
経常利益から、資産売却益や損害賠償費用などの「特別損益」と「法人税等」を差し引いた当期純利益を用いて、下記の計算方法で算出します。
自己資本利益率は、投資家のリターンに直結する指標であるため、資金調達時に最も注目されます。
製造業全体における平均値は、7.5%です。
総資本経常利益率は、ROA(return on asset)とも呼ばれ、企業の総資産を使ってどれほどの利益を生み出したかを示す指標です。
総資本経常利益率は、先の自己資本よりも大まかな総資本に着目しているため、財務構成を考慮する必要がありません。
したがって、自社の運用利回りを、会社規模や財務構成が異なる同業他社と比較することが可能です。
総資本経常利益率の計算方法は、以下の通りです。
製造業全体における売上高経常利益率の平均は、6.9%です。
製造業にもさまざまな業種があり、利益率が異なります。
この章では、製造業を下記6種類に分類し、利益率の平均と目安を紹介します。
同業種の平均値と比較し、自社の収益性を客観的に判断してみてください。
1.食料品製造業
平均値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 40.7% | 42.2% |
売上高営業利益率 | -5.0% | 3.5% |
売上高計上利益率 | -3.1% | 3.5% |
自己資本経常利益率(ROE) | -0.5% | 84.3% |
総資本経常利益率(ROA) | -3.5% | 5.6% |
食料品製造業は、商品の差別化が難しい上に、競合との価格競争が厳しい業種です。
そのため、製造業全体と比べ収益性が低い傾向にあります。
また、卸売業者や小売業者に対しリベートを支払う商習慣もあるため、販管費などのコストが膨らみ、利益率低下の一要因になっていると言えるでしょう。
平均値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 41.3% | 41.6% |
売上高営業利益率 | -4.0% | 3.5% |
売上高経常利益率 | -2.5% | 3.2% |
自己資本経常利益率 | -11.1% | 90.3% |
総資本経常利益率 | -2.6% | 6.1% |
国内市場では、1991年をピークに市場規模が縮小。
加えて、安価な海外製品の輸入が拡大しているため、収益の確保が難しい業種といえます。
衣服・繊維製品製造業は、季節による需要変動の影響を受けるため、在庫管理コストが高まる点にも注意が必要です。
平均値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 47.5% | 47.3% |
売上高営業利益率 | -2.0% | 3.9% |
売上高計上利益率 | -0.7% | 4.1% |
自己資本経常利益率 | 13.8% | 74.1% |
総資本経常利益率 | -0.9% | 6.3% |
印刷・製版業は、売上高総利益率が高いものの、売上高営業利益率が低い傾向にあります。
受注生産を基本とする業種であり、顧客の要望へ対応するための販管費が、利益率を圧迫する要因と考えられます。
また、資材価格は原油相場・為替相場と連動するため、各国の情勢により製造原価が拡大しやすいです。
平均値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 38.5% | 38.6% |
売上高営業利益率 | -1.4% | 4.3% |
売上高計上利益率 | -0.9% | 4.5% |
自己資本経常利益率 | 14.1% | 72.2% |
総資本経常利益率 | -1.6% | 6.5% |
プラスチック製品製造業の利益率は、製造業全体よりも低い傾向があります。
プラスチック製品は、他の製造業製品よりも単価が低く生産品種が多岐に渡るため、利益率が伸びにくい業種です。
加えて、近年環境配慮の動きが活発化しているため、プラスチックの再利用や有効利用、生分解性プラスチックなどへのシフトが発生しています。
平均値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 41.1% | 42.8 |
売上高営業利益率 | -1.2 | 5.1 |
売上高計上利益率 | -0.2 | 5.3 |
自己資本経常利益率 | 26.4 | 61.7 |
総資本経常利益率 | 0.6 | 7.4 |
金属製品製造業は、製造業の中でも利益率が高い業種。
日本の金属製品製造業は、高精度・高品質という付加価値があるため、海外への輸出が盛んです。
その一方で、国内向けには多品種小ロット生産に対応する企業が多いため、生産性・収益性が伸び悩む中小企業も多く見られます。
平均値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 | |
売上高総利益率 | 40.0% | 42.8% |
売上高営業利益率 | -3.0% | 5.4% |
売上高計上利益率 | -1.8% | 6.1% |
自己資本経常利益率 | 18.2% | 94.6% |
総資本経常利益率 | -0.9% | 7.5% |
一般機械器具製造業は、販管費の削減に成功している企業が多く、売上高営業利益率・売上高経常利益率が高い傾向にあります。
また、近年では、製品提供後のアフターサポートを含めた、サービタイゼーションが活発化している業種です。
製品(モノ)以外の価値が創出されることで、営業利益率・経常利益率のさらなる拡大が期待されています。
利益率は、企業の収益性を示す指標のため、高ければ高い方が良いとされています。
もし、同業他社よりも著しく低いのであれば、収益悪化の要因を見つけ出し、早急に改善する必要があります。
一方、本来良しとされる高利益率な場合でも、収益を悪化させる要因が潜んでいる恐れがあるため、注意が必要です。
たとえば、下記のケースが考えられます。
企業経営では、利益率が高いに越したことはありませんが、上記のようなリスクがある点には注意してください。
製造業が収益性を改善する方法は、突き詰めると下記の2パターンに集約します。
上記2パターンを順に紹介します。
1つ目の改善方法は、すでに多くの製造業企業が取り組んでいる売上の向上です。
売上を伸ばすには、高付加価値化やマーケティング・営業強化などが考えられますが、まずは比較的取り組みやすい、価格設定の見直しがおすすめ。
多くの製造業企業では、原価に利益を上乗せして製品価格を設定しているかと思います。
しかし、この方法では市場や顧客の価値観が価格に反映されず、企業側の考えのみで価格が構成されます。
場合によっては、市場が求める単価よりも、低め・高めに設定しているかもしれません。
そのため、自社の製品単価をいまいちど見直し、市場や顧客の価値観を考慮した上で再設定すると良いでしょう。
製品単価を適正化することで、市場から受け入れられやすくなり、売上向上につながります。
2つ目の方法は、原価や人件費などのコストを抑えることです。
多くの製造業企業は、真っ先に売上増加に取り組み、経費削減を後回しにしがち。
しかし、経費の削減は、売上増加よりも取り組みやすい上に、大きな収益改善効果が期待できます。
ただし、人件費や原価などは大きな削減効果が期待できる一方で、難易度の高い項目。
そのため、まずは比較的取り組みやすい、下記がおすすめです。
日常的に使用する電気・水道や消耗品などは、一人ひとりが心がけるだけでも大きな削減効果が期待できます。
初めのうちは定着しづらいかもしれませんが、一度定着すれば持続的にコストを抑えられるため、ぜひ取り組んでみてください。
設備・システム投資の増加は、短期的に見るとコストのかかる施策ですが、長期的には、業務の効率化や人員の削減などコスト削減・売上
向上効果が期待できます。
また、国税庁が中小企業の投資促進を目的とした税制優遇処置もおこなっているため、こうした制度を活用し設備投資を増強してみてはいかがでしょうか。
この記事では、製造業における利益率の目安と平均値を、業種別に紹介しました。
業種ごとに利益率の平均値は大きく異なるため、収益改善を図る際には、同業種企業の利益率を参考にすると良いでしょう。
また、高利益率な場合にも、潜在的なリスクが潜んでいる恐れがあるため、自社内を俯瞰し問題がある場合には適切に対処してください。
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煩雑な業務を平準化し利益率向上を達成した事例もございますので、ぜひご覧ください。